心の不調をIT活用し見える化

 慢性疾患を持っていても、それと折り合いをつけながらどう仕事を続けるかを考える時代。

精神の疾患や不調で問題になりやすいのは、体調の波が大きく、職場はもちろん本人もかなり悪化するまで気付きにくいことだ。

心の不調を早く見つけるのに役立つIT活用のソフトが、精神障害者の就労支援策として成果を上げつつある。

将来は職場でのメンタル不調の発生予防に活用できる可能性もあるとして精神科医らが関心を寄せている。

 

 ソフトの名称は「SPIS(エスピス)」。

大阪市のソフト会社、奥進システム(奥脇学社長)が2012年に開発したウェブ日報システムだ。

 本人が設定する「朝までぐっすり眠れた」「ミスがないか確認できた」といった体調や仕事面の項目について、「良い」から「悪い」まで1~4点で自己評価した結果を画面に入力。

自由記載のコメント欄もある。

勤務先の担当者(上司)と、臨床心理士など外部の支援者の3者でこの情報を共有し、上司、支援者もコメントを記入できる。

 奥脇社長は障害者雇用に力を入れてきたが、精神疾患がある人を雇った際「好不調の差が大きく、突然体調を崩すように感じた」。

業務日報に「体調」欄を設け記入を促したところ、ある社員の場合、突然に見えた体調悪化の少し前から頭痛などが始まることが分かり、仕事の調整など先手の対応が可能になった。

「他社でもこれを使えれば、精神障害者の退職を減らせるのでは」と製品化したのがエスピスだ。

 開発は、精神疾患を持つ社員が中心に担当。

自己評価点の推移をグラフに表示して変化を「見える化」するなど使いやすい工夫を加えた。

 

 2年前に奥進システムに入社しホームページ作成などを担当する浦田梨佐さん(30)は発達障害で人とのコミュニケーションが苦手。

調子が落ちると不安感が強まり、以前の職場ではそれで仕事を休みがちになって勤務が長続きしなかったという。

エスピスを見ると、つらい時期が来るのには3カ月程度の周期があった。

「自分では分かりませんでした」と浦田さん。

その時期に負担が重くならないよう、職場としても配慮できるという。

 エスピスは13年以降、大阪府など自治体や財団の助成事業に採択され、全国精神障害者就労支援事業所連合会(事務局・大阪市)などが企業への普及活動をしている。

近畿地方を中心に約70社が導入し、15年度までの3年間にエスピスを利用した当事者約90人を調べると、利用開始後約1年半の時点で、約8割が勤務を続けていたという。

 

 「見える化」と並ぶエスピスの大きな特徴は、日報の情報を、上司以外に、外部の支援者が共有する点だ。

障害者の就労支援センターなどで訓練や実習を受けた後に就職した人の場合は、センターの職員がその役を担うことが多いという。

 精神科医の樋口輝彦・日本うつ病センター理事長は、外部の専門家が関与するというエスピスのユニークさに注目する。

 「職場のメンタル問題の多くは、上司と当事者の閉じた人間関係の中で悪化していく。まだ厳密な効果を論じる段階ではないが、うまく活用すれば、当事者が精神疾患を発症する前に予防する手段になり得るのではないか」とみる。

同センター六番町メンタルクリニック(東京都千代田区)でも、職場でエスピスを利用する精神疾患患者の支援を始めたという。

 ただ、継続して関わる支援者をどう確保するかや、適正な費用負担の在り方など課題はある。

樋口さんは「着実に実績を積み重ねながら、より良い活用法を探る必要がある」と話している。

 

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