文学的な素養のない私でも若山牧水の名歌「白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり」を思い出します。
確かにしみじみと飲む酒のうまさは格別なのかもしれません。
酒の功罪についても昔からよく取り上げられてきました。
江戸時代の貝原益軒は「養生訓」(1712年)の中で、「酒は百薬の長、過ぎては害になるが、半酔いに飲めば長生の薬となる」と説いています。
西洋にも「寝る前のワイン1杯は心臓病を予防する」ということわざもあるそうです。
一方、酒(アルコール)は肝臓に負担をかけ、肥満や高血圧をもたらすこともあり、その功罪は複雑で多面的です。
最近の科学的な視点では、欧米で実施された八つの研究のまとめから、アルコール摂取と死亡率の関係は「J字」のような曲線になりました。
つまり、多量飲酒の人は(当然ながら)死亡率が非常に高いのですが、まったく飲まない人も少し死亡率が高く、適量を飲む人は最も死亡率が少ないことを表す結果です。
この場合の最適量は1日でアルコール(エタノール)26グラムと算出され、死亡のリスクを22%も下げることが推定されています。
同じような研究結果は日本のいくつかの研究で報告されています。
どうも1日20~40グラムくらいの適量の飲酒(ビールなら大瓶1本まで)は御利益があるようです。
理由はさまざまなことが考えられます。
ストレスの軽減や、いわゆる善玉(HDL)コレステロールを増やして動脈硬化を抑制し、心臓病の予防に役立っていることなどです。
ただし、これらの研究ではそもそもお酒を飲めない人に飲酒させることが健康に良いかどうかは調べられないことなどから、完璧な証明ではないことに注意することが必要です。
もちろん酒の飲み過ぎは当然ながら健康を害する原因です。
あの名歌を詠んだ若山牧水は1日1升の酒も辞せずという大酒飲みだったようで、43歳という若さで肝硬変によって亡くなっています。
飲むんだったら、楽しくお酒を味わい、ほんのりと半酔いくらいがよいようですね。